空調服の持つ生理クーラーは高温地域なら広く輸出することが出来る
暑さ対策を行う際には、熱中症を予防するためにエアコン導入と水分・塩分摂取を定期的に行うことが有効とされてきました。しかし、溶接や鉄鋼業界だけでなく暑い場所で仕事をしなければならない場所は多いので、空調服を導入することは命を守ることに繋がります。
では、空調服は海外向けの輸出に適した製品として仕上がっているのでしょうか。
空調服は生理クーラーとして働く
空調服は人間が本来持つ発汗作用を助けることで涼しい環境を服の中だけで作り出します。暑さが厳しい場所では、発汗作用により出た汗が蒸発する際に気化熱を奪うことで体温を下げる役割を持つ自然の作用です。しかし、湿度が高い日本国内では飽和水蒸気量の限界に近い湿度となるため、思うように汗が蒸発せず体温を下げる効果が限定的になりがちです。
人間が持つ生理的なクーラーとしての性能には、気化熱を強制的に奪わせる機能が付属していません。そこで、空調服により服の中に空気の流れを強制的に作り出すことで、汗を素早く気化させて気化熱により体温を早期に下げる効果があります。
そのため、暑い室内であっても空調服を着ていれば、気化熱の作用により常に体温を奪い続けることになるので結果的に涼しくなります。
なお、空調服として仕上げるためには、空気の流れをどのようにして服の中に流すのかという空気の流れを研究する必要がありました。
数多くの失敗を繰り返した上で開発に成功したことは、試作品を繰り返し着用して体感温度と着心地をテストし続けた努力の結果です。
空調服として販売開始された初期の製品と比較すると、近年発表されている製品の多くが複数バリエーションを使用環境に合わせて用意していることからも分かります。
脱ぐから着るという逆転の発想で作られた
従来の暑さ対策は、こまめに水分を摂取するかエアコンが効いた涼しい部屋で定期的に体温を下げるというものでした。しかし、室内温度を下げると生産性が極端に落ちる職種や屋外作業者にとっては、空調服が開発されるまで我慢するしか無い現状が続いていました。
そして、薄着をするという従来の暑さ対策から、風を着るという逆転の発想に着眼出来たからこそ空調服に繋がったわけです。また、ヨーロッパや中東の暑さは日本とは異なり、気温は高くても湿度が低いために汗をかいてもすぐに乾くため気化熱の恩恵を受けやすくなっています。
一方、高温多湿な日本を含めた東アジアや東南アジア地域では、中南米同様に湿度が高いために汗が蒸発せずに熱中症となる危険が高まります。さらに、暑さに慣れているとは言え、エアコンを家庭内で使用している限りは熱中症に対する抵抗力が落ちていると考えて良いです。
加えて、生理クーラーとして不足している機能を補うために、服を上から着て内部に風を巡らせることで強制的に気化熱を奪うという発想が空調服の原点となりました。
高温地域なら常に需要がある
熱帯雨林気候や温暖湿潤気候の地域ならば、夏場の気温が摂氏30度以上となることは珍しくありません。ですが、炎天下の作業が求められる果樹園や農業においても、空調服を着用すれば快適なまま農作業を続けられます。
エアコンが普及していない地域であっても、空調服に付属するバッテリーを充電出来る環境さえ整っていれば高温多湿の日中であっても快適に作業を行えます。この日本国内で開発された空調服を海外向けにアピールするには、一度実際に着用して良さを体感出来た人が口コミをしたりリピーターになったりすることが有効です。
さらに、世界中に進出している日本企業が現場作業員に対して空調服を支給することにより、一度着用した作業員が快適性に気づいて積極的に着用してくれる仕組もあります。法人需要が多い空調服は、初期投資に日本円にして2万円前後必要とするので個人がすぐに手に入れようとするためには若干ハードルが高いです。
しかし、バッテリー充電に必要な電気代は1ヶ月毎日使用しても月20円~30円相当と安いので、エアコンにかかる電気代と比較しても極めて安くなることも需要の増加につながります。また、屋外作業に従事している人ならば、元々エアコン導入が出来ないために空調服の快適性を知れば注文が続々と入るでしょう。
生産性に温度が影響する業種では涼しい地域へ輸出可能
溶接作業や鋳物製造現場は、室内の温度が下がるほど生産性が落ちてしまう特徴があります。また、室温が高く長時間作業を行えないために必然的に休憩時間を長くする必要があり、結果的に時間あたりの生産性が下がりがちです。
しかし、空調服を使用することで室温が高めであっても作業を継続できるならば、生産性向上と作業員の快適性も上がるので気候面では涼しい地域であっても輸出先として新規開拓可能です。空調服は着用して体感しなければ快適性を実感できません。
そのかわり一度着用すれば実用性の高さと快適性を確認出来るので、以後は口コミが広がり需要が伸びるでしょう。
輸出先の国数は特許出願数で分かる
輸出先の国の数は毎年増えているものの空調服を現地でも生産したいと考える会社が増えていることも確かです。
そのため、空調服の開発元では世界各国へ製造方法について特許出願を行っており、海外7件の特許取得と15件の国際特許出願申請中という状態です。
また、バッテリーとしてリチウムイオン電池とニッケル水素電池の2種類を用意している背景には、各国の生産状況に加えて使用環境の温度に合わせているという事情があります。例えば、製鉄所や極めて高温になりやすい場所では、リチウムイオン電池を避けていざという時に爆発リスクが少ないニッケル水素電池を採用しているモデルも少なくありません。
過酷な環境下で使われる空調服だからこそ、輸出による販売と現地企業によるライセンス生産を使い分けています。
特定用途に特化したモデルが開発されている
空調服は日本国内で独自開発されたものですから、法人向け需要が多いために特定の職種向けに特化した生産が多いです。さらに、販売時期についても受注生産モデル以外は夏場に向けた需要を見込んで生産を行っているので、汎用モデル以外は真夏が本格化する前に売り切れてしまう製品が出ます。
また、空調服を輸出する国数が増えるごとに新たな需要が生まれるので、ファンの搭載数が従来モデルの2つとは限らず4つに増やしたモデルだけでなく半袖モデルも販売中です。空調服の幅広い需要は、高温環境下で働かなければならない人が熱中症で倒れずに快適な作業を行えるよう手助け出来る製品として増えています。
各国の事情を考慮した上で日本国内生産品を輸出するモデルと、現地企業によるライセンス生産モデルが棲み分け出来ると考えられます。